伝える力
週末にある大学の日本文学の教授と飲みました。
日本文学(学問としての)には全く縁がないと思っていましたが、教授の話を聞いているととても興味をそそられました。
中でも盛り上がったのが、井原西鶴の『日本永代蔵』についての話。
初めは近況報告と言うことで、僕が最近の中小企業の経営環境の変化や成長している会社、倒産した会社の話などを幅広くしていたのですが、先生が突然
「それって300年前に起きていることと同じですね」
と言ったことから、日本永代蔵の話になりました。
僕は知らなかったのですが、「日本永代蔵」は経済小説の原点と言われているそうです。
江戸時代の町人の生活を取り上げた小説で、町人の成功や失敗談が数多く書かれているそうです。
先生が紹介していた話で面白かったのは、例えば、茶を売る商人の話。
ものすごく簡単にストーリーを話すと、
お茶の行商が訪問販売をしていたのですが、茶葉を売るのではなくその場でお茶を入れて売るというアイディアで大成功した。
しかし、さらにお金を儲けたいと思うあまりに、茶を入れた後の茶殻を集め、お茶の原料に混ぜて売ると言う詐欺を行った。
大儲けしたが、ろくな死に方をしなかったという話。
前半はまさにマーケティングの話だし、後半は、少し前に話題になった食品偽装の話です。
300年前に今の経済の中で生じているのと同じようなストーリーが出来上がっていたと言うのがすごいねということで盛り上がったのです。
その他、
反物をお客様の要望に合わせて、小さく切って売るという商人の話(当時は切り売りは常識では考えられなかったそうです。顧客ニーズに応えると言うサービス業の原点です)や
倹約に倹約を重ねてお金を貯めていたけちな商人が、吉原に落し物を届けに行ったところ、案の定はまってしまって財産を失ったという話なども紹介してもらいました。
大学の授業ではこれらの話から現代の経済とどういうつながりがあると感じるかというレポートを書かせたりするそうなのですが、こういう視点で日本文学を読むと面白そうですよね。
僕は国語、特に古文があまり好きではなかったのですが、先生の話を聞いているととても読みたくなりました。
さすがに原文は読んでいられないので、早速紹介してもらった現代語訳の「日本永代蔵」を買ってしまいました。
それにしても、伝える力って本当に大事だなあと感じました。
伝え方一つで、特に興味のなかった分野に興味が湧かせるのですから。
先生の伝える力の源を考えてみると、自分がそこに熱中しているかどうか、それが好きかどうかということなんだろうな。
先生の専門は松尾芭蕉なのですが、芭蕉や西鶴の話をしている時の目の輝きがすごい。
研究している時に没頭している姿が目に浮かびます。
そのワクワク感がこちらにも伝わってくるんですね。
そして、こちらの話とのマッチングもうまい。
大学教授、日本文学といったイメージとのギャップが相当ありますが、先生はたぶん、営業をやってもうまいと思います。
熱中できるものをもつというのは素晴らしいことです。
そして、ほんとに人の縁とは面白いものですね。
先生との出会いに感謝です。